2026/6/11に実施した公開セミナーに関連して、メールでいただいた質問にお答えします。
《お問合せ内容》
認知症の方のセクハラの対応について困っています。何度も説明しても忘れるし、
理解されないので続くと職員の離職につながります。対応方法を教えてほしいです。
《回答》
認知症の方によるセクシャルハラスメント(不適切行動)への対応は、
現場の職員の方々にとって精神的にも肉体的にも非常に大きな負担となります。
「何度説明しても伝わらない」という現実に、現場が疲弊してしまうのは当然のことです。
職員の離職を防ぐためにも、個人の我慢に頼るのではなく、組織全体での仕組み化と、
認知症の特性に合わせた具体的なアプローチが必要です。
以下に、現場で実践できる対応方法を【ケアの工夫】と【組織の対策】に分けて提案します。
1. 認知症の特性に応じた「その場」のケア・対応
認知症の症状(記憶障害や見当識障害、理性の低下など)が原因である場合、
「説教する」「理詰めで説明する」のは効果が薄く、逆に本人の不穏を煽ることがあります。
毅然と、しかし感情的にならずに伝える
触られたり不適切な言葉をかけられたりした瞬間、
「やめてください」「触られると困ります」と、短くはっきりとした言葉で伝えます。
長々と理由を説明するよりも、その瞬間に拒否の意思を示す方が伝わりやすいです。
「話題を変える」「物理的に距離を置く(リダイレクト)」
本人の記憶の持続時間が短いことを活かし、不適切行動が始まったら
「あ、あそこに綺麗な花が咲いていますよ」「お茶にしましょうか」など、
全く別の話題や活動に注意をそらします。
それでも収まらない場合は、「トイレに行ってきますね」などと伝えて、その場から数分間離れます
(放置ではなく、安全を確保した上での距離の確保)。
性的な欲求以外の「背景」を探る
不適切行動の裏に、別の不安や不快が隠れていることがよくあります。
「寂しさ・退屈」:誰かに注目してほしい、お喋りしたいという欲求が不適切行動に繋がっている。
「身体的な不快」:下着がきつい、尿意がある、皮膚が痒いなどの不快感を、うまく言葉にできず、
手を伸ばす行動に繋がっている。
接触の機会(環境)をコントロールする
特定の職員(例:若い女性職員など)に対して行動がエスカレートしやすい傾向がある場合は、
その職員と1対1になる状況(入浴介助や排泄介助、個室での対応)を避けるシフトや担当の工夫が必要です。
2. 職員を守るための「組織・体制」の対策
職員の離職を防ぐための最優先事項は、
「職員に一人で抱え込ませない・我慢させない体制づくり」です。
「業務上のリスク」として組織で共有する
「これくらい我慢すべきか」「自分の対応が悪いのかも」と職員が抱え込まないよう、
ケアマネジャーや施設長、チーム全体にすぐに報告・共有できる風通しの良い環境を作ります。
ケース記録には「〇〇さんが困った行動をした」ではなく、
「いつ、どんな状況で、どのような言動があったか」を
客観的に記録し、対策のデータとします。
2人体制(複数名)での対応を徹底する
問題の行動が見られる利用者への介助は、原則として2人体制、または
男性職員を含めた組み合わせで行うようにします。
複数人で対応することで、抑止力になると同時に、万が一の際の証人を確保し、
職員の精神的安心感に繋がります。
ハラスメントに対する組織の指針(マニュアル)を明確にする
「認知症だから仕方ない」で済ませるのではなく、
厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」などを参考に、
「ここまでは毅然と対応する」「ここを超えたら管理者が介入する」という
明確なラインを設けます。
被害に遭った職員のメンタルケア(話を聴く、一時的にその利用者の担当から外すなど)を迅速に行います。
3. 医療や家族との連携(次のステップ)
ケアの工夫や組織の対策でも改善が見られず、
職員の安全や精神状態が脅かされる場合は、外部の力を借りるフェーズです。
主治医(精神科・老年病科など)への相談
BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)の一環として、
性的な脱抑制(ブレーキが効かなくなる状態)が起きている可能性があります。
主治医に「具体的にどんな行動が、どの頻度で起き、業務にこれだけ支障が出ているか」を正確に伝えます。
ご家族への報告と共有
現状を隠さず、事実をご家族に伝えます。その際、「責める」のではなく、
「安全で質の高いケアを継続するために、一緒に対応を考えたい」というスタンスで臨むことが大切です。
ご家族から、本人が落ち着くキーワードや、昔の趣味など、対応のヒントをもらえることもあります。
ひとたびハラスメントが発生すると、現場の方々は、日々ストレスに晒されている状態となります。
「利用者のため」はもちろん大切ですが、「まず働く職員の心身の安全が第一」という方針を、
管理者や組織のトップが明確に打ち出し、具体的な行動を起こすことが、これらをきっかけにした
離職を防ぐ最も強いメッセージになります。
時にはすぐに解決できないこともあるかもしれませんが、「この職場は自分を大事にしてくれている」
と思えるような職場づくりができると良いなと思います。
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